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このコラムでは、日頃お客様の転職活動にフォーカスしているが、実は我々:転職エージェントにも転職経験者は多い。
同業他社でアドバイザーをしていた者、人事・採用業務経験者、それにエンジニアなどの専門職から転向してきた者もいる。元Jリーガーもいれば、警察官もいる。そして、時に「自分が辞めた会社に人を紹介する」という経験をすることになるのだ。

エンジニアKさん(31歳)の転職相談を受けて、我々は自信を持ってメーカーA社を紹介した。
二時間半の面談で、求職者からの希望をじっくり聞いても、求人紹介は手探りになりがちだ。そんな中でKさんに対して、「オススメの会社」にA社を挙げることが出来たのは、Kさんを担当したアドバイザーがA社の元社員だったからであった。

「実は、私は以前、A社で働いていたんですよ」
アドバイザーがそう明かすと、Kさんはまず驚き、そしてすぐに少し眉をひそめた。おそらく『どうして自分がイヤで辞めた会社を、自分に勧めるのだろう』と考えたのだろう。
「A社は私には合いませんでした。エンジニアとして私の専門領域が中途半端だったため、A社のなかで自分の将来像が描けなかったのです」
アドバイザーは自分がA社を辞めた経緯を説明した。
「しかし、エンジニアとして軸足がしっかりしている人には、A社は素晴らしい環境を与えてくれる企業です。会社の風土も、かつての堅いだけのイメージとは違うところが出てきていますよ」
2年前まで在籍していた会社で、かつての同僚とも付き合いは続いている。アドバイザーはA社での働き方や風土を、具体例を交えて詳しく伝えた。

会社を辞めた人間は、現職よりも中立の立場。ある面ではその会社をより的確に見ることができる。Kさんはアドバイザーの話に納得してうなずき、「かつて働いたことがある人の勧めというのは、一番安心できますね」と、応募に意欲をみせてくれたのだった。

アドバイザーの見立て通り、KさんはA社の選考をクリアしていった。KさんもA社の考え方に共感し、転職が決まるのは時間の問題のように見えた。
ところが、セレモニーとして行われる役員面接の直前、Kさんは転職を取りやめてしまう。Kさんは現在のプロジェクトがこうなった、家族との話し合いがうまくいっていない、など色々な理由を述べたが、結局のところ、彼自身のなかで迷いが残っていたように我々には思えた。
A社の採用担当者は、Kさんの辞退に不快感を隠さなかった。
「緊急の事情があるならともかく、彼の言う理由はずっと以前から分かっていたことでしょう? どうしてもっと前に言ってくれなかったのか…」
役員面接の前日キャンセルで、人事も上層部から叱責を受けていたのだ。

この一件の二か月後、Kさんは再び我々のところにやってきた。そしてもう一度、A社を受けさせて欲しいと言うのだ。

「前回は、本当の意味で転職をする準備が出来ていませんでした。今回は仕事もきっちり区切りをつけてきましたし、家族にも十分納得して貰っています」

Kさんの訴えに、我々は応えた。渋るA社の人事を、昔のよしみでなんとか説得し、特例としてKさんをもう一度選考の俎上に載せてもらった。そして、今度は役員面接をこなし、正式な内定書類をもらうところまでこぎ着けた。
だが、しかし…。Kさんは現職の企業で引き留めを受けたようで(Kさんからの連絡が途絶えてしまったので推測するしかない)、再び辞退をしてしまった。
我々は、A社人事から呼び出しをくらうことになった。担当アドバイザーは針のムシロである。
A社の人事は担当アドバイザーに一言。
「こちらも大分無理をしたのに…。二度もつらく当たらないで下さいよ」
担当アドバイザーの転職は形式的には円満退社であるが、辞める時には相応の慰留も受け、A社に迷惑をまったくかけなかったわけではない。人事はそのことをよく覚えていた。
「いや、すみません。私も上(役員)から絞られましてね、ついイヤミを言ってしまいましたが、今後の紹介に期待していますよ」
そう言って意味ありげに笑うA社人事。我々は頭を下げるしかなかった。

現在、アドバイザーは嘆いている。
「A社はああ言いますけど、かえって紹介しづらいですよね。もう失敗できないと思うとプレッシャーが…」
無論、正道はひとつ、邪念を払って、転職者のために行動するしかないと分かってはいるのだが…。かつて働いていた会社に人を紹介するというのも、意外に大変なことなのである。
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毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
最近、下請けの立場で仕事をされているITエンジニアから、次のような話をよく聞くのです。
「いま常駐している(あるいは派遣されている)プロジェクトでは、元請けの会社の人と一緒に仕事をしています。彼らの仕事ぶりを見る限り、協力会社の自分にだって十分マネージャは務まると思います。だから自分も下請け(あるいは派遣)を脱して、元請けで上流工程を担当したい」
確かにそのとおりのときもあるのでしょう。ただし、ときには思い違いではないかと思うこともあります。今回は、このことに関連したお話をさせていただきたいと思います。

■「俺にもできる」が実現できる例

あるソフトハウスに勤務していたあるオープン系のエンジニアは、次のように語っていました。「外資系大手ITベンダが元請けのプロジェクトで働いている。自分の会社は2次請けだが、両社は同じ場所(クライアント先)で連携して仕事をしている。元請けのプロマネ(プロジェクトマネージャ)がダメダメな人で、要件定義が甘くて手戻りばかり。結局自分が尻ぬぐいをする羽目になり、エンドユーザーと打ち合わせからやり直すなど、元請けのマネージャ同然の働きをしている」
元請けの平均的なITエンジニアの人月単価を1とすると、彼は0.6~0.8ぐらいでした。それでも自分を育ててくれた会社への恩義もあり、その会社にとどまっていました。しかし、いつしか彼の業務や待遇での不満は限界を超え、結局30代半ばでオブジェクト指向開発で有名なある元請けのシステムインテグレータ(SIer)に転職したのです。
そんな成功事例がある一方で、2次請け会社に属しながら、元請けの仕切りが悪く火を噴いた案件をプロマネとして収束させた経験のある別のITエンジニアは、日本有数のSIerに応募した際、次のようにいわれたそうです。
「プロマネといっても、火が噴いた案件の後始末をしただけでしょ?」
IT エンジニアの怒りを買いそうな発言ですね。応募先のSIerは、プロジェクト管理志向の会社として知られているため(逆にいえば現場寄りではない)、最初から最後まですべてのフェイズでのプロジェクトマネージャ経験の有無と、動かしていたプロジェクトの規模が不採用の決め手になったようです。「管理力」よりも火消しの「現場力」が売りだった彼には、その会社はそもそも向いてなかったのでしょう。
ただこの人も、最終的にはご自身の経歴を生かせる別の元請けのSIerに転職が決まりました。

■俺にもできるが、「勘違い」となる例

システム開発の上流工程に進む場合、「エンドユーザーと直接話をした経験があるか」が、転職成功のポイントになることは多いようです。この点について、「保守・サポートフェイズの経験の中で、エンドユーザーと密接にコミュニケーションを取った」と語るITエンジニアもいます。しかし、本当にそうでしょうか。
確かに保守フェイズでエンドユーザーとコミュニケーションを取った結果、改修や機能追加に至ることはあります。しかし、顧客の要望を聞いてゼロからコンサルティングを行い、要件を決めていくのが、上流工程でのエンドユーザーとのコミュニケーションの基本です。すでにシステムが運用中でドキュメントも作成されている保守案件でのコミュニケーションとは質量ともに差がある、と考えるのが多くのSIerの見方のようです。
また、開発でエンドユーザー先で常駐していた場合でも、人材派遣や協力会社の一員として現場に入っていると、自分が担当できる(かかわれる)範囲が、コーディングやテストといった下流の補助的業務に限定されることが少なくありません。
上流部分で何が行われているかは見えない(見せてもらえない)となると、元請けと一緒に現場にいても、業務知識や設計スキルを身に付けることはそう簡単ではないのです。
よく「やりたいこと」と「やれること」は違うといいますが、一見近いように見える「できそうだ」と「やれる」も、やはり違うのです。

■在来線と新幹線の競争みたいなもの

あるプロジェクトで一緒に仕事をする元請け会社の社員で、業務には詳しい(らしい)が、技術にはあまり詳しくない人がいるとします。協力会社の人間としては、(技術では)あいつには負けない、と思うこともあるかもしれません。
しかしこれは、東京・品川間をゆっくり走る東海道新幹線(以下、新幹線)に、在来線が競争を挑んでいるようなものではないかと私は思います。わずかな区間であれば競争できているように見えるだけで、本気を出せば、車体性能や線路が別格の新幹線の相手にはなりません。能力的にも環境的にも勝てっこないのではないでしょうか。
IT業界でも同じではないでしょうか。元請けの会社にいる人は、配属されるプロジェクトも恵まれ、(全員とはいいませんが)与えられる仕事によってハイスピードで成長し、職位も上がっていく面があります。その結果、転職しようとしたときに作る職務経歴書の内容も立派に仕上がります。

■電車と同じで、乗り換えのタイミングが重要

結局、上流工程に進みたい人は「在来線から新幹線への乗り換え」が必要なのです。簡単そうに聞こえますが、実際はそうではありません。しかも、乗り換えにはタイミングが重要なのです。
新幹線の駅は、原則として数十kmごとに1つしかありません。しかもそのうち多くの駅は「こだま」(新幹線の各駅停車)しか停まりません。まずは在来線で最寄りの新幹線の駅へ行き、「こだま」に乗る。そして名古屋など大きな駅で「のぞみ」に乗り換えて新大阪を目指す。こうした計画的な2段階転職を考えられてもいいと思います。いわゆる、ステップアップ転職と呼ばれる形態です。まずは2次請けのSIerを目指して転職し、その後実力が付いた段階で元請けの SIerへの転職を目指す、というものです。
ただし、重要なのは転職を考えたときの年齢です。在来線に乗り続けていると、乗り換えようとしたときには、乗り換えるべき新幹線はもうないかもしれない。そういう危機意識は常に念頭に置いていただきたいと思います。


私は複数の自動車メーカーなどを渡り歩き、もうすぐ40歳になりますが、転職活動で内定を5ついただき、おそらくは最後になるであろう転職先を決めたところです。20代30代の人たちにとって参考になればと思い、これまで働いた4社での経験や、就職・転職時における会社選びの考え方、ダメな人材紹介会社の見分け方や活用法などについて、お伝えしようと思います。

【Digest】
◇ディーゼルに照準
◇年収一律7%カット
◇次を決めずに辞めたのは失敗
◇「キミはいま、何をやっているんだね?」ズブズブ三菱ふそう
◇メールで「ドクター」抜くだけで不機嫌に
◇日産自動車へ 想定外のことが続々
◇変動ボーナス込みの年収提示に騙されるな!
◇転職35歳限界説はウソ
◇若いうちは営業・購買なら外資、設計なら日本企業
◇小規模の人材紹介会社ほどカルチャーに詳しい
◇若いキャリアアドバイザーは役に立たない

◇ディーゼルに照準
大学は私大理系で化学を専攻していました。それで単純に好きなモノを扱う仕事をしたい、ということで自動車メーカーを考えました。そのなかでも、どこが強みとなる技術を持っているかを考えて、ディーゼルエンジンだと思ったんです。
ディーゼルはガソリンと比べても熱効率がよく、揮発性が少ないから安全性も高い。車だけでなく建設機械や船など、輸送用機器全般や離島の発電システムにも使われて用途が広い。これに関われる事は、自分のキャリアとしても、活躍の幅が広がると思った。

そこでディーゼルエンジンに強い、ということを売りにしていたいすゞ自動車を選びました。たまたま親がバス関連の仕事をやっており、家にそういった本があったので知っていた。ディーゼルというポイントとなる技術を持っている会社を選んだことが、後のキャリアに役立ちました。

入社後はまず技術営業を4年ほどやり、次に設計に異動して9年。つまり計13年いました。営業と設計の両方を若い段階で経験できたのはよかった。これは自分の意志を上司との面談で伝え動けた結果です。

最近、転職の面接をしていると、技術営業と設計の経験が見られているな、と思うことが多い。図面を読めてモノのつくり方が分かり、さらに営業の経験もある。両方できるというのが、キャリアとしては強いですね。

それから最後の数年は設計の中で、購買業務も経験した。外部企業からモノを購入する際に、技術者の立場から図面を見て、価格に見合った適正なものかを判断し、交渉する仕事です。様々な取引先企業との窓口役なので、いろんな会社のモノ造りの現場を見る経験ができました。

◇年収一律7%カット
キャリアとしては悪くなかったのですが、入社13年目でも年収が600万円ほどと、収入面がネックでした。当時はちょうど経営不振のまっただなかで、約1万人いた従業員のうち、リストラで4千人が去っていった時期でした。

2001 年8月に、第1回目の早期退職優遇の募集がかかりました。このときは、退職金の割り増しによって、当時の自分で800万円ほどになるという条件でした。とりあえず応募を見送ったら、翌2002年8月にも追加募h集がかかった。2回目は条件が悪くなり、退職金が600万円くらいだと言われました。自分は応募しませんでした。

結局、こうして約4千人をリストラしても、2002年終わりから2003年にかけて株価50円割れが続き、経営危機は続きます。会社に残った人たちも、年収ベースで一律7%カットという措置が決まり、仕事の負荷が増えたことや、自分の意思に反する度重なる部署の移動に耐えかねた私は結局、2003年5月、転職先が決まらないまま、辞めることにしました。

毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。

■必ず転職希望者に聞くこと

次に挙げる項目は、私が転職支援の仕事をしていて、転職希望者に必ずお伺いしていることの1例です。

    * 今回転職をしようと考えたきっかけ
    * 表向きの転職理由だけでなく、裏側の本当の理由
    * 過去に転職を経験されている場合には、その際の転職理由

求職者が挙げる転職理由には、まだ漠然としていることが多いものの、ご本人の仕事に対する考え方、キャリアの志向、お人柄など、今後の転職活動、キャリアプランを立てるうえで生かせるヒントがたくさん潜んでいます。
企業での採用面接においても、質問されることが多いのも、実はこの転職理由です。おそらく多くの企業の採用担当者も、おおむね私と同じように、転職理由から分かることが多いと考えているのではないかと思います。
転職回数や就業期間などが明確でないと、その求職者が本当に自社に定着し、活躍してもらえる人材になってくれるのか、懸念されることが多いのです。

■自身のキャリアを掘り下げよう

そこで、転職活動の第1段階として、まずはこの転職理由を足掛かりに、ご自身のキャリアを掘り下げ、自己分析の材料にすることを私は提案します。

    * スキルアップやキャリアアップを望んで
    * 残業や休日出勤、年収などの待遇
    * 人間関係や職場の環境など
    * 業績悪化、事業部閉鎖など
    * 自分のやりたい仕事ができない

転職理由として考えられることを挙げたら、どんな理由であっても、1度立ち止まって振り返り、「希望する方向に変えるような努力をしたか」「問題を防ぐことはできなかったのか」など、これまでのことを自己分析してみましょう。そうすると、ご自身が仕事についてどう考えているのか、今後どうしていきたいのか、どのような方針で転職活動をすることが今後の自分にとってプラスとなるのか、おそらくいままで以上に具体的に見えてくると思います。
その結果として、いまの会社に残るという選択をされることもあるでしょう。
こういった自己分析やキャリアの棚卸しをしていくことで、会社を選ぶ基準も明確になり、転職先の企業で、より働きやすい環境を築くことにもつながっていくと思います。

■会社選びのポイントやキャリアプラン

面接などで多くの企業に足を運ぶ中で、企業を選ぶポイントやキャリアプランが変わることがあります。企業研究をしながらさまざまな会社の人と話す機会を持つうちに、人により程度の差こそあれ、考え方に変化が生まれるのはむしろ当然のことです。
しかし、それにより、事前にご自身の転職について分析し、決めた方針が無駄になることはありません。まずは事前にじっくり自己分析を行ったうえで転職活動に入り、転職活動の中でさらにご自身の考えを固めていってください。

■企業への転職理由の伝え方

最初に書いたように、面接で転職理由を質問されることは多いと思います。このとき、求職者が考えているよい転職理由と、企業が考えるよい転職理由には、評価にズレを感じることがあります。
具体的に挙げれば、例えば以下のような転職理由(求職者にはプラスのイメージを抱く人が多い転職理由)に、マイナスイメージを抱く企業、採用担当者は少なくありません。

●「スキルアップ/キャリアアップのため」
・望みながらもいまの環境でキャリアアップできないとしたら、それはなぜか
・いまの環境では本当にスキルアップできないのか
・勉強などによって、自らスキルアップする努力をしているか
・採用しても、スキルアップできないと感じたらすぐに辞めてしまうのではないか

●「業績悪化に伴い、将来に不安を感じたため」
・入社前のリサーチ不足、もしくはリサーチ力がないのではないか
・業績が悪化したのは会社のせいなのか
・業績が思わしくない場合、一緒に盛り立てていくことができない人なのか

●「やりたい仕事ができない」

・上司や会社に、企画の提案をしたのか
・現在のポジションでも、しっかりと前向きに業務に取り組んでいたのか
・別部署で希望がかなうのであれば、根気よく異動願いを出しているか
転職活動をされる場合には、上記に挙げたようなことが転職理由の場合、改善するためにどのような取り組みをしてきたのか、より明確な答えを持っておく必要があります。
企業は採用をするために面接をするのであり、落とすためにするわけではありません。
しかし、企業も数回の面接や筆記試験、職務経歴書などの資料だけで長く一緒に働く相手を採用するわけです。そのため、とても慎重になっているのです。そんな企業の不安を払うためにも、事前にしっかり自己分析を行い、面接で相手を納得させられる回答ができるようにしておきましょう。

■納得できる転職に向けて

ここまで読んでこられて、「転職してはいけない」と私が述べていると思われた方もいらっしゃるかもしれません。そうではありません。転職自体はその目的と道筋さえ間違っていなければ、決して悪いことではありません。求職者の希望と企業の求める人材とが一致すれば、お互いにとって素晴らしい出会いとなります。そのお手伝いをさせていただくのが私たちの仕事です。
とはいえ、1つの会社で長く働き続けることにより得られること、身に付くことが多くあるのも事実です。社内外で得られる信頼関係や評価、任される仕事内容など、多くのメリットがあります。
それを踏まえたうえで、転職することを選んだのであれば、自己分析、そして事前準備と下調べなどの情報収集を十分に行うこと。そして、業務内容や待遇といった表面的に見えるものだけではなく、「納得のうえで働き続けられそうな会社か」という視点を持って、ご自身に合った、安心してご活躍いただける環境を見つけてほしいと思います。
一方、自己分析をしっかりされていない方やキャリアプランが明確でない方が、安易に環境を変えて問題を解決しようとした場合、短期間での転職を幾度となく繰り返してしまうケースがままあります。そういった悪循環を招く転職活動は避けたいところです。
転職活動に関するすべてのことを、お1人だけで行うのは大変なことです。ご自身を掘り下げ、本気で転職先を探すほど、さまざまな点で迷い悩むのは当然のことです。結論の出ない堂々巡りにはまり、どうしていいのか分からなくなってしまうケースがよく見られます。
また、あまり公にせずに転職活動をなされる方が多い現状では、信頼できて転職について何でも話せる相談相手が周囲にいる方は少ないものです。そんなときはぜひ、人材紹介会社のキャリアアドバイザーにご相談ください。
企業の情報を含めて、転職市場に精通し、数々の求職者の転職支援を経験しているアドバイザーであれば、転職活動の参考になる話もできるでしょう。何よりも良き相談相手になるはずです。お1人では結論が出なくなってしまったことでも、一緒に転職に関する考えを整理して、適切な転職活動プランを立てることができます。ですから積極的にキャリアアドバイザーを活用していただければと思います。


毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。
転職では、面接官は面接を通じてさまざまな角度から転職候補者を見ています。スキルはもちろんのこと、コミュニケーション力やリーダーシップ力など、職務経歴書では見えない内容を、会話のやりとりから感じ取っているのです。決断力もその1つです。

■もっと上流工程の仕事がしたい

以前にあったケースを、今回ご紹介したいと思います。
A さんは27歳、2次請けを中心とした受託開発のシステムインテグレータ(SIer)でシステムエンジニア(SE)として従事していました。しかし、もっと上流工程の仕事がしたいと自分から積極的にお客さまと話す機会を持つなどして努力していました。しかし、会社の組織としての限界を感じ、ITコンサルティング会社への転職を希望して転職活動をスタートしました。
ある日、B社からAさんにぜひお会いしたいとの連絡がきました。B社はクライアントにかなり入り込み、システムだけではなく経営戦略・事業戦略といった領域から幅広く実行支援まで行うことが特徴の会社です。Aさんにとってはチャレンジングな環境ですが、Aさんの志向にも合致しており、このチャンスに気合を入れて面接に臨むことになりました。
順調に選考プロセスをこなし、B社から最終面接の連絡がきました。Aさんもその「朗報」にもちろん喜んでいましたが、話をしているとAさんから少し不安な言葉が漏れました……。「1点気になっているのですが、とてもハードな職場のようですね。プロジェクトの状況では家に帰れない日も多々あるようで。現職も忙しいのですが、それ以上かもしれないです」

■Aさんの迷い

コンサルティングという仕事柄、確かにハードな仕事かもしれません。B社も、Aさんのポテンシャルを評価されていますが、チャレンジが必要な転職ということもあり、あえてその点を強調し、Aさんが十分納得されたうえで決めていただきたかったようです。
「これまでの面接では、何とお答えしたのですか?」
「一応、十分納得したうえで転職したい旨は伝えました。でも、いろいろ考えると……」
確かに悩まれるのもよく分かります。あとは希望の仕事をするためのリスクをどれだけのリスクととらえ、覚悟ができるかです。今後のキャリアプランを考えたときに、いまの年齢、この時期に何をすべきか。最終面接までまだ1週間あったので、じっくり考えて、どちらにせよ当日までにお気持ちを決めていただくようお願いして電話を切りました。
そして最終面接が終了し、Aさんから連絡がありました。
面接は無事に終了しました。B社のことや仕事内容はとても興味深いです。仕事のハードさは理解はしているんですが……。どうしてもまだ気持ちが固まりません」
面接ではB社から「本気で、当社でコンサルタントとしてイチからやる気があるのであれば、しっかり育てていくよ」とはっきりいっていただいたようです。
しかし、現実的に考えれば考えるほど慎重になってしまい、その場ではあいまいな返答しかできなかったとのことです。

■タイミングを逸したAさん

翌日、B社から連絡がありました。
「Aさんの件ですが、今回は見送らせてください」
理由を確認すると……。「決断力がないと弊社でやっていくのは難しいですよ」
面接を通じてポテンシャルは高く評価されていました。これまでも問題意識を持って仕事に取り組んでいましたし、磨けば光る人材で、鍛えることによって活躍していただけるイメージも持っていたようです。
「新しい仕事にチャレンジするので不安な点があるのは分かりますが、これまで何度かお会いして、前回の面接からも1週間以上あったのに転職するか否かを決断できないのでは、正直、弊社でやっていくのは無理ですね」
コンサルタントという仕事は、経営者をはじめお客さまと向き合わないとやっていけない仕事です。自分のことも決断できないのであれば、ビジネスにおいても難しいと判断されたようです。
同じ日にAさんから、あらためてB社で本気で取り組みたい旨の連絡がありました。しかしながら、時はすでに遅し。B社の決定は覆りませんでした。
Aさんのケースはあくまでも一例ですが、企業側はさまざまなシーンで決断や意思決定の仕方を見て、本気度や、ビジネスにおける決断力を推し量っているのです。また、面接の場面以外でも、企業は転職プロセス全体を通じて決断力をチェックしているのです。

■意思決定をこなし、決断できるか

例えば面接の日程調整。上で取り上げたAさんとは別の方ですが、書類選考に合格したのですが、面接の日程調整ができずNGになってしまったケースもありました。確かにプロジェクトで客先に常駐したりと忙しかったようですが、その間の状況報告もあいまいで企業も困惑していました。
企業も選考を進めてもどうなるか分からず、半ばあきれてNGの結論を出したのだと思います。しかし、実のところは物事を決めることができない人だという判断をしたようです。
業務が忙しいことは分かりますが、スケジュール1つ調整できなければ、入社後も業務で発生する調整ごとに対応ができないのではないかと取られてしまいます。物事を調整するということは、何かを決めていくということです。しかし、自分のことも決めることができないようだと……、と企業は考えます。
内定後の意思決定場面。ここも決断を要求される場面です。企業はもちろん採用したくてオファーを出しておりますが、その後の対応によっては内定が取り消される可能性もあるのです。プロポーズはしたけど、その後の反応・対応で気持ちが変わってしまうこともあります。
転職活動で、数社並行して進めていたものの、ある企業から先に内定が出た際に決断ができず、回答のタイミングを誤ってせっかくの内定が無効になったり、逆に転職希望者に対する会社側の印象が悪くなったりすることが結構あるのです。
他社との兼ね合いなどさまざまな事情があることや、比較して決めたいというお気持ちはもちろん理解できます。ただ、新卒のときのように内定を複数もらってから、後でゆっくりと考えることが難しいのが中途採用なのです。

■タイミングよく決断すべし

そういう状況で、煮え切らない態度を取ってしまうと、この人は決断ができない人だという見方をされ、入社しても仕事を進めていく中でも決断できないのではないかと判断されてしまうわけです。
繰り返しになりますが、企業は転職候補者が決断できるか否かをじっくりと見ているのです。しっかりと意思決定や調整など決断ができると企業に判断されればプラスの評価、好印象を与えます。決断できないのであれば、その理由をしっかり説明することにより、マイナスの評価を避けることもできるのです。
仕事も転職活動も、決断や意思決定の連続です。その都度しっかりと考えをまとめ、しかるべきタイミングで結論を出すことが大切です。あいまいに先送りすると、仕事においても決断ができない人と判断されてしまうのです。
転職は、しかるべきタイミングで意思決定をし、決断すべし。


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