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就職氷河期に苦労した世代が、自分の本来の希望を転職で叶えようとする。いわゆる『リベンジ転職』である。

Tさん(25歳)も最初は、そんなひとりだった。目指す職種・業界によっては決して楽ではないリベンジ転職だが、Tさんは特定の企業にはこだわらず、「ネット関連企業に転職したい」と希望を述べた。流通のスーパーバイザーだった彼の視野は、広く転職を考えたことで、大きく開けていた。
もっともTさんは、我々の楽観的な話を聞いても、本当に可能性があるのかどうか疑心暗鬼だったようだ。就職の時、Tさんは有名ネット会社でまるで相手にされなかったことをよく覚えていた。

「大学名を言った途端に興味がなくなったように見えました。ああいう会社は、実力主義で出身大学は気にしないと思っていたんですけど、僕の印象ではむしろ逆で、ブランド大好きみたいな感じがしたんですよね」

多くの企業が採用を控えるなか、大量採用をしていたネット業界は、当時学生だったTさんの目にはさぞかし輝いて見えたのだろう。だが、ここ数年の市場の変化は、Tさんの想像を超えていたようだ。かつて鼻であしらわれた企業から熱心な勧誘があり、Tさんは大いに気をよくしていた。そして一通り一次面接を終えたところで、手応えの良かったA社を、「学生時代に入社を熱望していたベンチャー企業と雰囲気がよく似ている」と、第一志望にしたのだった。

二次面接に向かうTさんは、すっかり意気揚々としていた。ある場面を見るまでは…。
A社の面接を待っている時にTさんはA社の採用担当者が礼儀のなっていない学生たちに頭を下げ、お世辞を言い、媚びへつらう姿を見た。そして思った。
「4年前、あれだけ自分たちに厳しく当たったくせに、景気が変わったらこれか」
A社は、4年前にTさんが受けた会社とは別の会社なのだが、彼のなかではほとんど同一視されていたらしい。こんな風に変わってしまう業界は、とても信用ならないという気持ちが彼のなかに芽生えていた。
幻滅は、徐々に復讐心に変わっていったが、彼はその時点では何も語ろうとはしなかった。我々にTさんの心境の変化を知る術はなかったのである。

選考を無難にこなしたTさんは、A社から内定を得た。それを知ったTさんは、嬉しそうな声で「前向きに考えようと思います」「入社の方向で考えています」と言いながら、結論を先送りにし続けた。
そして、いよいよA社が「もう、これ以上は待てない」と言った期限になって、「お断りします。実は最初からあまり乗り気ではなかったんです。ひょっとして気持ちが変わるかもしれないので、念のため結論を延ばしていただけなんです。転職活動はやめて、現職に留まることにします」と、言ってのけたのだった。その後、一度だけTさんが我々に送ってきたメールによれば、気を持たせるやりとりは、自分が学生時代に別のネット事業会社からやられた「仕打ち」なのだそうだ。

それっきりTさんとの連絡は途絶えてしまったので、彼が本当に現職に留まったのか、転職をしたのかはわからない。A社の人たちはTさんの対応に驚き、不快感を示したが、決して激怒したわけではなかった。「変な人を採らなくてよかった」彼らはそう安堵していた。三週間後、A社はTさんに代わる別の人を見つけて採用した。

Tさんの行為は、本当に自分の過去に対する復讐だったのだろうか。仮に復讐だったとしても、A社に唾したTさんの気持ちが晴れたとも思えない我々なのである。
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